『現代に舞い降りた天使たち』第5弾 久々な(?)ShortStoryです。
こちらのお話の主役はシンさん。
お仕事がちょっと地味な分、出だしも地味ですが(苦笑)
今回、ある方がゲスト出演❤
しかも、お二人が出ていますよ――誰と誰か、解るかな?
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◆湯気の向こうに……━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
定時を知らせる鐘の音。
本日の終業時間を知らせているもの。
しかし、誰一人として席を立つものなどいなかった。
なぜなら、今は決算期。
企業にとっても、今が一番忙しい時。
そんな中で、一人定時に帰ることなど、許されようもなかった。
経理課――こんな決算時には、どこの部署よりも忙しい。
そんな必死の面持ちで働く面々の中に、どことなく涼しげな顔をして、さくさくと仕事をこなしている人がいた。
未処理の書類が右側。
処理が完了した書類が左側。
その完了書類の高さが、他の皆よりもはるかに高かった。
的確に素早く算出し、間違いなどを見抜けば、即座に後ろに回す。
まるで機械のような手捌きで、それらを処理していく。
多忙を極めた経理課も、彼が入ってからと言うものその処理速度は格段に速くなり、また、間違いなどもなくなったともっぱらの評判だった。
そうこうしているうちに、彼の手元にある書類の今日の分の処理を終えたらしい。
とは言っても、時計を見ると既に10時を回っていた。
これ以上は効率が悪くなるだけだと、この会社では残業はこの時間までとされていた。
自分の分の仕事をすべて終わらせ、課長へと提出した。
まだ2度3度の見直しとかがあるかもしれないが、それでも、他の人たちよりもその手間は格段にかからない。
誰もが、そのことを知っていた。
まるで……歩くPCのようだと囁かれるほどに。
夏も近いというのに、今夜は肌寒かった。
軽く夜ご飯は食べたけれど、なんとなく小腹が空いているような感じ。
家の近くの公園のそばを通りかかった時、鼻腔をくすぐる匂いが自分を呼んでいるような気がした。
見ると、めっきり見なくなった屋台のラーメン屋がそこに店を構えていた。
匂いに誘われて、暖簾をくぐる。
ちょっと目がきつい男の人が、こちらをちらりと見て「いらっしゃーい」と言った。
既に先客がいた。
長い黒髪が、とても印象的な――それでいて女性らしさと言うものをまったく感じさせない、痩身の体躯。
ちらりとこちらを見ただけで感じる、威圧感。
いるだけで感じる、存在感。
こんな人もいるんだ……ある意味、感心してしまった。
「あ、どうも……」
言葉をかけるが、聞こえなかったのか反応が無かった。
仕方なく、そのまま腰を下ろす。
そして、主人に注文をした。
「あの……ラーメンをひとつ、いただけますか?」
「なんかつけるかい?」
「なんかって……なんですか?」
「ゆで卵とか、チャーシューやネギ増やすとか、ナルトやしなちくを増やしてくれって注文なんかもあったな」
「へぇ……」
「で? どうする?」
「そうですね……。じゃあ、ナルト、いいですか?」
「ナルトね。はいよ」
会話を交わしながらも、その手は休む事を知らず。
しばらくして、ナルトとチャーシューの入った、ちょっと面白いラーメンが出てきた。
色的に、この辺りによくあるような濃いものとは少し違っている。
どこのだろうか?
一口飲んでみる。
「これは……」
思わず呟いていた。
湯気の向こう側の親父さんが、にやりと笑ったような気がした。
美味しそうな匂いの、その正体が解った気がした。
のどを通る時のなんとも言えない感覚。
文句なしに、美味しい……。
ため息とともに、呟きがもれた。
小腹が空いたところを埋めようとしただけだったのに、しっかりと食べてしまった。
でも、本当に美味しかった。
この時間の食事で、こんな風に満足できる事は、今までなかったかもしれない。
別に毎日の食事が満足できないわけではない。
けれど、この時間と言うのは、普通食べないもの。
だから……ちょっとした軽食で済ませることが多い。
ちょっとした空腹を、飢えを満たすだけのものだから、しっかり食べる事はなかった。
けれど、これは違う。
胃がもたれてしまう可能性はあった。
夜更けに、こんなしっかりとした食事を取ったのだから。
後はもう寝るだけ――そんな夜半に、こんなに食べては……。
ふと、小言を言うレイの顔が浮かんだ。
また、何か言われるかな。
でも――それを凌駕してしまうほどに、この味は美味だった。
もう、そう言うしかないくらいに。
「親父。お金はここにおいてくよ」
先客がそう言って立ち上がった。
やはり、かなり背が高い。
ユダやゴウたちよりも背が高いんじゃないだろうか?
そんなことを思いながらぼんやりと見ていると、彼はこちらをちらりと一瞥し、そのまま去っていった。
視線を交わした瞬間のその瞳が、なんとも鋭くて……。
心臓が早鐘のように鳴り響くかと思ったくらいだった。
肉食獣の獣の瞳――そう言えるかもしれない。
思わず、全身の息を吐き出すかのような、深い息をついていた。
「どうしたい? 不味かったかい?」
そんな親父さんの声に、我に返った。
「あ、いえ……。とっても美味しかったです。ご馳走様でした」
「お粗末様」
「いつもこの辺りでお店出してるんですか?」
「いや……ここは、今日が初めてなんだ」
「そうでしたか。道理でお見掛けしたことのないものだと……」
こんな美味しそうな匂いの屋台が近くにあると知れば、騒ぎ出すものがひとりやふたりいるものだから……。
今まで誰の口からも聞いたことがなかった分、とても疑問に思った。
もしかすると、みんなの中で一番乗りかもしれないな。
そう思うと、なんとなく嬉しくなった。
いつか、誰かに教えてやろう――そう思うと、楽しくなってくる。
それにしても……さっきの人は。
なんと言う威圧感と存在感だろう。
何処かで会っているような気もするけれど、はっきりとは思い出せない。
遠い過去の記憶なのか、誰かの話で聞いたものなのか……。
まぁ、縁がある人ならまた会うだろうし、必要ならばまた情報なり何なりと聞く事もあるだろう。
今はその時期ではない――のかもしれない。
そう思うことにした。
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